私がアトピー治療に携わるなかで、アトピーの症状が複雑になってきたと実感したのは1990年代に入ってからでしたが、この頃から、アトピーの治療にスキンケアの指導やビタミン・ミネラル療法を組み合わせる必要性を感じはじめたのです。
それまでの治療の基本は西洋薬と漢方薬、そして「正體」治療でした。「正體」は皆さんがご存じの「整体」に近い手技療法ですが、特殊な考えのもとに私が開発した方法なので正體と表現しています。
しかし、どんなに漢方薬や正體などで注意深く治療をしても、石鹸ひとつ変えただけで、全身の皮膚が傷だらけになってしまったり、市販の化粧水はどれも使えなくなってしまった患者さんが増えるにつれ、考えが変わっていきました。
当時、石鹸や化粧水などは、患者さんが使っていてよかったものや合わなかったものをいろいろもってきていただき、10年間で合計400種類以上はチェックしたと思います。その結果、石鹸や化粧水に含まれる防腐剤や人工香料が、思った以上に皮膚に損傷を与えることがわかり、正しいスキンケアで症状をやわらげる重要性を痛感しました。
そして、ビタミン・ミネラル療法をとりいれるようになったのは92年ごろからです。ビタミン・ミネラルの効果は以前からわかっていましたが、きちんと効果を得られる高品質のサプリメントがなく、初めは思うように結果が出ませんでした。
しかし96年ごろ、良質のサプリメントを開発することで、ビタミン・ミネラル療法を積極的に導入することができるようになりました。
それからは完治までの期間が飛躍的に短くなったのです。また漢方薬だけの治療結果と比べても、ビタミン・ミネラル療法を組み合わせることで、強くて美しい皮膚がつくられることもわかりました。
このようにして私はこれまでに、症状も病因も複雑化してきたアトピーと対峙し、治りにくい患者さんと向き合い、どうしたら治るのか試行錯誤を重ねることで、現在のような治療方針をつくり上げてきました。目的は一貫して「アトピー性皮膚炎に負けない強い身体に改善する」ことです。
現在、私のクリニックでは西洋薬と東洋の漢方薬を中心に、他の施設とも連携をはかり、一人ひとりの患者さんの症状や体質に合わせて、正體、ビタミン・ミネラル療法、スキンケアの指導などを組み合わせた治療を行っています。これらは、すべて経験と科学的根拠に基づいており、確かな効果を上げてきたものばかりです。
近年、西洋医学を診断の基準とし、東洋医学に代表されるような代替医療(なかでも科学的根拠のあるもの)からも治療法を選択し、一人ひとりの患者さんに合った的確な治療を行う「統合医療」という概念が、新たに注目されはじめています。
私が目指し、確信をもってつくりあげ、実践してきたアトピーの医療は、まさにこの「統合医療」だったのです。
それではここで、現在私が行っている4つの治療プログラムを簡単に紹介しましょう。くわしくは第2章で説明します。
(1) 漢方薬による治療(体質改善)
治療の第一歩は問診です。目にみえる症状だけでなく、体力、体質、胃腸の状態などくわしく知ることによって、一人ひとりに適した漢方薬を処方します。
(2) ビタミン・ミネラル療法(皮膚に栄養を与える・皮膚の代謝を促す)
皮膚の代謝を改善するために、症状に応じて、天然型ビタミン・ミネラルのサプリメントを処方します。処方されるサプリメントは、内臓に負担をかけず、消化吸収、代謝に優れた天然のものです。
(3) 正しいスキンケアの指導(皮膚の保護)
日常生活での皮膚への刺激を軽減させるための指導を行います。間違ったスキンケアは皮膚の症状を悪化させますので、正しいスキンケアの知識を身につけていただきます。
また、石鹸やクリームなどの身のまわりに使う生活用品や化粧品に、次のような皮膚に害のないものをとりいれるよう指導します。
○ 人工界面活性剤を含まない石鹸、シャンプー、リンス
○ 防腐剤を含まない天然保湿クリーム、天然オイル
○ 酸性水、アルカリ水
(4) 丹羽式正體(ゆがみを治す・皮膚の血流量を増加させる・免疫力を高める)
丹羽式正體術を施すことによって、血流量を増加させ、皮脂の分泌を促します。これによって皮脂膜が強化されます。
また筋肉が柔軟になることで、身体のゆがみ、ねじれが改善され、全身の血流や自律神経の伝達が正常になり、内臓の機能が高まります。
さらに血流がよくなることで、水分と皮脂の混ざった「よい汗」がかけるようになります。「よい汗」はアレルギーの原因であるアレルゲンを寄せつけず、肌のうるおいを保つ最良の保湿剤となります。
以上の4つのプログラムを中心に治療を行っていくと、早い人で2週間、遅い人でも3カ月で皮膚に変化がみられはじめます。そしてそれ以前に、便秘や冷え性などの身体の不調が改善されていきます。
繰りかえしますが、この治療の目的は、よい皮膚をつくれるような強い身体に改善すること、いわば、皮膚がよくなる土台づくりです。ですから一足飛びに炎症が治まったり、いきなり皮膚がきれいになったりするわけではありません。
しかし、体質の改善とともに、皮膚は着実に、根本から変わっていきます。ステロイドによる治療に比べると、かゆさとは長くつきあうことになりますが、他の方法では得られない強い身体と皮膚を取り戻すことができるのは間違いありません。